2007年5月5日

Toxic syrup ~ クスリにまさかの毒入り?!

本日の目に留まったニュース。From China to Panama, a Trail of Poisoned Medicine (NYTより)

薬品のシロップとして使われるグリセリンの代わりに毒性のあるジエチレングリコールが混入していたことが原因で多数の死者が出たことが報道されています。問題のジエチレングリコールは中国で製造されたもので、高価なグリセリンと偽って販売していたようです。

日本語のサイトだとこちらに詳しく書かれていました。アップデートの時期が昨年末になっているので、以前から報道されていたんでしょうけど、私自身は今回の事件のことはNYTの記事を見るまで知りませんでした。

ジエチレングリコールに関しては過去にもワインに混入されていた事件があったのを思い出します。

The New York Timesによれば、毒シロップの被害は、パナマを始めとして、製造国の中国のほか、ハイチ、バングラディシュ、アルゼンチン、ナイジェリア、インドで認められているようです。

1992年バングラディシュで起きた小児大量死亡事件をきっかけとして、当時途上国で働いていたBennish医師がクスリをアメリカに持ち出して調査をした結果、解熱剤にジエチレングリコールが混入していたことを発見し、1995年にBMJに発表したことから明るみになったようです。米国でも70年前にジエチレングリコールの混入した薬品によって100名以上が死亡するという事件があり、それ以来FDAによって厳しく規制されています。10年前ハイチで少なくとも88名の小児が死亡した事件の際にも、FDAの調査員が原因究明のため中国の製造元の調査を試みたそうですが、中国当局によって調査が阻まれ、その後1年以上経って許可が下りたときには、すでに工場は移転され記録は全て廃棄されていたらしいです。

しかし次第に中国政府も事態を深刻に受け止めるようになり、製薬工場の取り締まりの強化を始めたようですが、それでも関係者の話からはまだまだ規制は緩く「ザル(ブラックホール)」状態だそうです。

今回の事件の犯人であるWang Guipingは、2005年から偽グリセリンを作り始め、当初は自分で飲んで安全性を確認したようですが、より利ざやの大きいジエチレングリコールを混入するようになってからは、毒性を知りながら販売していたみたいです。この偽グリセリンが使われた薬品(Amillarisin A)が中国内で使われ、2006年に18名以上が死亡しています。

そしてそれから時を同じくして遠く離れたパナマでも原因不明の死亡者が多数出現し、その調査によってこの事件が明るみになっていったというわけです。パナマでは当初中毒患者は Guillain-Barre syndrome と診断されることが多かったようですが、発症頻度の高さや腎障害の併発それにその発症様式の違いから、ギランバレー症候群以外の疾患が疑われるようになり、Sosa医師を中心に詳細に調べられていったようです。初期の死亡者の多くは、60歳以上男性、糖尿病、高血圧で、その半数以上が降圧薬(Lisinopril)を服用していることが判明。しかしそれだけでは全ては説明がつきませんでした。心疾患で運び込まれたある患者にこのクスリを使用したあとから、この謎の疾患と同じ症状を発症したことがきっかけとなり、患者がクスリの副作用に対して咳止めシロップを同時に服用していたことから、シロップが疑われるに至ったようです。



これって立派な薬害ですよね?原因不明の疾患を診るときにはまずはクスリを疑うのが常識なのですが、発展途上国ではそれもなかなか難しいのでしょう。調査によってシロップが中国製であることは判明したわけですが、事件の経緯から見ても偽グリセリン作りはWangだけが行っていたわけではなく、それ以前から行われていたと思われます。このシロップは一度もテストされることなく流通していったそうです。スペインの業者を通した時点で製品保証は英訳され、元の情報はなくなってしまっていたみたいです。そこから購入する業者はそのラベルを信頼してしまうわけですよね。

薬品に限らず全てのものがグローバル化によって原産地の特定などが難しくなってます。日本でも産地偽装が明らかになった事件や製造工程の管理上問題があるのにそれを隠していた事件がいくつかありましたけれども、それも一歩間違えれば今回のような事件に繋がる可能性を秘めているわけです。最近アメリカでもペットフードに毒性のある化合物が混入していた事件がありましたが、これもすべて根っこは同じように思います。

薬品はともかく、日本のように食糧の大部分を輸入に頼っている国は、いくら政府が頑張っても全てを検査することは難しく、それらを管理する個々の業者の責任はこれからますます大きくなるように思います。たった一度の不運が命取りになることもあるわけですから、食の安全の問題は非常に大きな問題ですよね。結局はコストの安いものの方がリスクが高いわけですけど、流通経路が複雑になると必ずしもリスクとコストは逆相関しないように思います。それだけに絶対的な安全を手に入れるためには、消費者は口にいれるものをローカル化していくしかないのでしょうかねぇ?

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